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読書

資本主義の望ましいルールについて

 資本主義の望ましいルールについては、市場の失敗や自己責任論などの抽象的な話が多い。

 ここでは、米光一成『人生が変わるゲームのつくりかた』(筑摩書房)を参考にして、優れた『ゲームのルール』の作り方から資本主義の望ましいルールを検討してみたい。

第1ステップ:資本主義社会とは「巨大なゲーム」である

 まず、資本主義を一種のゲームとして捉える。参加者がいて、資源(資本)があって、ルール(法律や市場)があり、勝敗や報酬がある。ただし、ここでのゲームの定義は、「『自発的に』取り組む『不要な』障害」ではなく、「『強制的に』取り組まなければならない『必要な』障害」であるということになる。人類は生きるため、そして豊かさを求めて、強制的にこの市場というゲームに参加しているということになる。

 しかし、今の資本主義ゲームは、参加者の全てが幸せなわけではない。その大きな原因として、「ルール」が人間の認知の限界(限定合理性)を無視していることがある。そこで、「社会のルールを良くするとは、ゲームのルールを面白く書き換えることである」という観点から望ましいルールを検討する。

第2ステップ:「おもしろさの4要素」をルールに組み込む

 次に、ゲームを「おもしろく(=持続可能に)」するために必要なルールとは何か。面白いゲームの基本構造として「行動・障害・報酬・目標」の4つを正しく設計するということがある。

 これを資本主義のルールに応用すれば、

行動:誰でも簡単に始められる一歩があること(労働や起業へのアクセスのしやすさ)。

障害:簡単すぎず、難しすぎない適切なハードル(市場でのフェアな競争)。

報酬:頑張ったらすぐに手に入るフィードバック(適切な賃金や利益)。

目標:何のためにやっているのかという大義(自己実現や社会貢献)。

 このバランスが崩れている資本主義は望ましいルールによって運営されているとはいえない。例えば、格差が広がりすぎて、一般の労働者にとって『障害(リスク)』が大きすぎ、『報酬』が少なすぎるという意見もあると思われる。これは、面白くないゲームとして、「難しすぎるとプレイヤーは絶望してやめてしまう。簡単すぎると退屈してやめてしまう。」というものである。

 反対に望ましい資本主義のルールとは、すべてのプレイヤーが「これなら自分も挑戦できる、やってみたい」と思える絶妙な難易度に調整されたルールということになる。

 自己責任として突き放すのではなく、プレイヤーが絶望してゲームを投げ出さないように、ルール側が難易度をコントロールする必要がある。

第3ステップ:「非対称性のあるルール」による調整

 難易度を調整する手段としては、「ルールの非対称性」を導入するということがある。全員が完全に同じ条件でスタートするゲーム(機会平等)が必ずしも面白いとは限らない。

 多くのゲームは、何度もやると実力差が固定されて、弱い人はずっと勝てなくなる。

 そうすると人間は、「勝てない」と認識すると、やる気を完全に失ってしまう。やる気を失わせないためには、「非対称なルール」による調整が必要となる。プレイヤーの特性によって異なるルールにするということである。

 資本主義においては、強者(大企業や富裕層)と弱者(中小企業や労働者)に、全く同じ『自由競争』という一律のルールを適用したら、強者が勝ち続けるのは自明である。だからこそ、望ましいルールとは、強者には相応の重荷(累進課税や規制)を課し、弱者にはアドバンテージ(セーフティネットや教育機会)を与えるという「意図的な非対称性」を持たせることが必要となる。

 非対称性のあるルールこそが、ゲームを長持ちさせ、多くの人のやる気を持続させるものである。

 「非対称なルール設計(強者の規制・弱者の支援)」→「プレイヤー全員の持続的な参加(市場の活性化)」

 「弱者救済」をただの道徳や福祉として捉えるのではなく、ゲームの寿命を延ばし、場を盛り上げる(皆のやる気を持続させる)ための必須のシステムデザインであると再解釈を行う。

第4ステップ:「遊び(ルールを見直す自由)」がある社会

 「優れたゲームのルールとは、プレイヤーがそのルールを使って、作り手の想像を超えた「新しい遊び」を生み出せるもの」であり、資本主義の最終的な望ましい姿も、同じである。

 国家や大企業がガチガチに国民の行動を監視して、決められたレールの上だけで競わせる社会は、最悪のゲームであるといってよい。望ましい資本主義のルールとは、最低限の安全(セーフティネット)を保証した上で、プレイヤーたちが市場という舞台を使って、誰も見たことがないような新しいサービスや、新しい生き方というを自発的に発明できる、寛容で、余白のあるルールである。

 ルールは人間を縛るためにあるのではなく、人間が安心して「自由なゲーム」を楽しむための土台である。

 「セーフティネット(最低限のルール)」 +「自由な余白」→「新しい価値の発明(豊かな資本主義)」

 資本主義の望ましいルールは、「プレイヤーである私たち人間が、どうすれば絶望せず、退屈せず、夢中になって新しい遊び(仕事)を生み出せるか」というゲームデザインである。

 弁護士が法律(ルール)を解釈するときも条文の文言だけを見ているわけではない。その法律(ルール)が、限定合理性しか持たない生身の人間たちの「行動」をどう変え、彼らにどんな「報酬」や「障害」を与えているのか、その現場のゲームバランスを常に考えているのである。

 資本主義の望ましいルールを検討することは、法律家がより良い社会を作るためにも、重要な検討課題である。

 

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